text:chomonju:s_chomonju332
古今著聞集 好色第十一
332 いつのころのことにか男ありけり・・・
校訂本文
いつのころのことにか、男(忠度1)がことにや)ありけり。内の女房を忍びてもの言ひわたりけるが、ある夜、局のあたりにたたずみて、「ここに2)ありと知られん」とて、扇のかなめを鳴らして使ひければ、女房聞きて、折節便宜(びんぎ)悪しきことやありけん、何となきやうにて、局の内にて、
野もせにすだく虫の音(ね)よ
と、うちながめたりければ、男、聞きて、扇を使ひやみてけり。
かしがまし野もせにすだく虫の音よわれだになかでものをこそ思へ3)
この心なるべし。
男も女もいと優(いう)になりけるにや。
翻刻
いつの比の事にか男(忠度か事にや)ありけり内の女房をしのひて 物いひわたりけるかある夜局のあたりにたたすみて ことにありとしられんとて扇のかなめをならしてつかひ けれは女房ききておりふし便宜あしき事やありけん なにとなきやうにて局の内にて野もせにすたく虫の/s235l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/235
ねよとうちなかめたりけれは男ききてあふきをつ かひやみてけり かしかまし野もせにすたく虫のねよ我(も物をはいはて)たになかて物をこそ思へ この心なるへし男も女もいと優になりけるにや/s236r
text/chomonju/s_chomonju332.txt · 最終更新: 2020/04/23 20:39 by Satoshi Nakagawa