text:chomonju:s_chomonju341
古今著聞集 武勇第十二
341 古郡の左衛門尉平貞綱が京の家に強盗入りたりけるに・・・
校訂本文
古郡(ふるこほり)の左衛門尉平貞綱が京の家に、強盗入りたりけるに、貞綱は酒に酔(ゑ)ひて、白拍子玉寿と合宿したりけり1)。思ひも寄らぬに寝所(ねどころ)に打ち入りたりければ、貞綱、太刀を抜きて打ち払ひて、玉寿を引き立てて、後園へ退きて、檜垣より隣へ越して、わが身もともに逃げにけり。
そのこと世に聞こえて、「強盗に逃げたる、わろし」など沙汰しけるを、貞綱、帰り聞きて、「今より後なりとも、強盗にあひて命失ふまじ。幾度も君の御大事にこそ、命をば惜しむまじけれ」と言ひけるにあはせて、和田左衛門尉義盛2)が合戦の時、昼は紅(くれなゐ)の袰(ほろ)をかけて黒き馬に乗り、夜は白き袰をかけて葦毛の馬に乗りて、軍の前(さき)をかけける、まことに一人当千とぞ見えける。日ごろの言葉にあはせて、ゆゆしくぞ侍りける。
つひに組み合ふ者なかりければ、自害3)してけり。
翻刻
ふるこほりの左衛門尉平貞綱か京の家に 強盗入たりけるに貞綱は酒に酔て白拍子 玉寿と合宿しきり思もよらぬにね所に打入/s252l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/252
たりけれは貞綱太刀をぬきて打はらひて玉寿 を引たてて後薗へしりそきて檜墻より隣へこし て我身も共に逃にけり其事世に聞えて 強盗に逃たるわろしなと沙汰しけるを貞綱帰 ききて今より後なりとも強盗にあひて命 うしなふまし幾度も君の御大事にこそ 命をはおしむましけれといひけるにあはせて 和田左衛門尉義盛か合戦の時昼は紅のほろを かけて黒き馬にのり夜は白きほろをかけ て葦毛の馬に乗て軍のさきを懸ける まことに一人当千とそ見へける日来の詞に/s253r
あはせてゆゆしくそ侍りけるつゐにくみあふ 物なかりけれは自容してけり/s253l
text/chomonju/s_chomonju341.txt · 最終更新: 2020/04/27 11:32 by Satoshi Nakagawa