text:chomonju:s_chomonju559
古今著聞集 興言利口第二十五
559 孝道入道仁和寺の家にてある人と双六を打ちけるを・・・
校訂本文
孝道入道1)、仁和寺の家にて、ある人と双六を打ちけるを、隣にある越前房といふ僧来たりて、見所(けんじよ)すとて、さまざまのさかしらをしけるを、「憎し憎し」と思ひけれども2)、ものも言はでうちゐたりけるに、この僧、さかしらしさして立ちぬ。
「帰りぬ」と思ひて、亭主3)、「この越前房はよきほどの者かな」と言ひたりけるに、かの僧、いまだ帰らで、亭主の後ろに4)立ちたりけり。敵(かたき)5)、「またもの言はせじ」とて、亭主の膝を突きたりければ、後ろへ見向きて見れば、この僧いまだありけり。
この時とりもあへず、「越前房は高くもなし、低(ひき)くもなし。よきほどの者」など言ひ直したりける心早さ、いとをかしかりけり。
翻刻
孝道入道仁和寺の家にて或人と双六をうちける を隣にある越前房といふ僧きたりて見所す とてさまさまのさかしらをしけるをにくしにくしと思はゝ れとも物もいはてうちゐたりけるに此僧さかしら/s443l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/443
しさして立ぬかへりぬと思て亭主此越前房は よき程の物かなといひたりけるに彼僧いまたかへ らて亭主のうしろみ立たりけりかたき又物い はせしとて亭主のひさをつきたりけれはうし ろへ見むきて見れは此僧いまたありけり此時 とりもあへす越前房はたかくもなしひきくもなし よき程の物なといひなをしたりける心はやさいと をかしかりけり/s444r
text/chomonju/s_chomonju559.txt · 最終更新: 2020/10/22 23:55 by Satoshi Nakagawa