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text:mogyuwaka:ndl_mogyuwaka05-12

蒙求和歌

第5第12話(82) 太真玉台

校訂本文

太真玉台1)

太真は温嶠が字(あざな)なり。妻(め)亡くなりて後、寡男(やもを)にして住みけり。

姑劉氏、一人の女(むすめ)ありけり。姿、あてにして、心、情け深かりけり。をばが、女に、良からむ聟をつたふべきよしを、太真に言ひ合はするに、心に、「いかで得てしがな」と思へり。

「良き聟は得がたし。わが身のほどならむ男は、いかがあるべき」と答へければ、「なんぢがほどならむ男をば、いかにしてか得べき」と言ひけり。

その後、ほど経て、「良き男、求め出だしたり。住処(すみか)も人柄も、われらほどの人なり」と言ひて、玉台一枚を出だせり。をば、おほきに喜びて、すでに受け引きてけり。

時に女、紗扇を開きて、掌(たなこごろ)をなでて、おほきに笑ひていはく、「われ、疑ふらくは、老奴なるべし」と言へり。ついて、心の占(うら)にたがはざりけり。

  われ問はぬ心の草は見えしかど玉の鏡の2)かげはかよひき

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大真玉臺
大真ハ温嶠カアサナナリメナクナリテ後ヤモヲニシテスミケリ
姑(コ)劉(リウ)氏(シ)ヒトリノムスメ有リケリスカタアテニシテ心ナサケ
深カリケリヲハカムスメニヨカラムムコヲツタフヘキヨシヲ大真ニ
イヒアハスルニココロニイカテエテシカナトヲモヘリヨキムコハ
エカタシワカミノホトナラムヲトコハイカカアルヘキトコタエケ
レハナムチカホトナラムヲトコヲハイカニシテカウヘキト云ヒケリ
ソノ後ホトヘテヨキヲトコモトメイタシタリスミカモ人カラモ
ワレラホトノ人ナリト云テ玉臺一枚ヲイタセリヲハヲホキニ
ヨロヒテステニウケヒキテケリトキニムスメ紗扇ヲヒラキ
テタナココロヲナテテヲホキニワラヒテ云クワレウタカフラクハ
老奴ナルヘシト云ヘリツイテココロノウラニタカハサリケリ
  ワレトハヌココロノ草ハミヱシカトタサノカカミノカケハカヨヒキ/d1-41r
1)
「太真」は底本「大真」。『蒙求』により訂正。以下同じ。
2)
「玉の鏡」は底本「タサノカカミ」。文脈により訂正
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka05-12.txt · 最終更新: 2017/12/02 19:18 by Satoshi Nakagawa