text:mogyuwaka:ndl_mogyuwaka08-03
蒙求和歌
第8第3話(113) 許由一瓢
校訂本文
許由一瓢
許由、穎川の人なり。世を憂きことに思ひとりて、箕山にこもり居て、年を送りけり。
尭王、許由が賢を知りて、「世を譲らむ」と聞こえけり。許由、「憂きこと聞きつ」と言ひて、左の耳を穎川の流に洗ひけり。
時に巣父、牛を引きて、穎川の流れを渡りて、水を飼はむとするが、許由が耳を洗ふを見て、「水汚(けが)れぬ」と言ひて、牛を引きて、帰りにけり。
許由、箕中の松下の泉の水を手に汲みて飲みけり。人、これをあはれみて、鳴り瓢(ひさご)を贈りけり。許由、水を汲みて、飲み終りて、梢(こずゑ)にかけてけり。瓢、風の吹くたびに、歴々として鳴りけり。許由、鳴る声をわづらはしく思ひて、打ち割りて捨ててけり。
清水汲むあとたゆとてもまつかげや風にみだるる音はよしなし
翻刻
許由一瓢 許由穎川ノ人ナリヨヲウキコトニ思/トリテ箕山ニコモリヰテ年ヲヲクリケリ 尭王許由カ賢ヲシリテヨヲユツラムトキコヘケリ許由ウキ 事キキツト云テ左ノ耳ヲ穎川ノ流ニアラヒケリ時ニ巣父 牛ヲヒキテ穎川ノ流ヲワタリテ水ヲカハムトスルカ許由カ耳ヲ アラフヲミテ水ケカレヌト云テ牛ヲヒキテカヘリニケリ許由/d2-4r
箕中ノ松下ノイツミノ水ヲ手ニクミテノミケリ人コレヲアハレミテ ナリヒサコヲヲクリケリ許由水ヲクミテノミヲハリテコスヱニカケ テケリヒサコ風ノフクタヒニ歴々トシテナリケリ許由ナルコエヲ ワツラハシク思テウチワリテステテケリ シミツクムアトタユトテモマツカケヤ 風ニミタルルヲトハヨシナシ/d2-4l
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka08-03.txt · 最終更新: 2018/01/13 16:50 by Satoshi Nakagawa